face on

あぅー

中距離

 生まれてこのかたほぼほぼ東京にいて、高校大学の6,7年は神奈川に住んでいたがそれも川崎や横浜より渋谷が近い田園都市線沿線という有様であり学校も東京であったため、シティボーイと言われてもそれはまるで否定の仕様が無い。

 なんだかそんな風に東京周辺で育って段々と移動範囲も広がって、昔から親に車でどこかに連れて行かれる度に車で移動ってのは不自由なもんだなあ歩きたいなあと思っていた僕は電車でふらふらと出かけるようになり、高校生あたりから鎌倉・湘南にはまって月に一度(は言い過ぎかも知れない)くらいの頻度で訪れては歩き回っていて、最近(といってもここ4,5年かしら)は五日市の風情なんかもだいぶ気に入っていて、何が言いたいのかと言うと電車で1時間半とかそんな距離でのトリップをよくしていたわけです。仕事をするようになってからは時間の制約もあるし、やはり丁度良い。
 あるいは北海道に(これももう3,4年前かしら)行ったこともあったのですが、なんだか遠すぎるという感覚と、ヒコーキははえぇなあなんていう小並感ですか、そういうので距離感もへったくれもなく、友人と遊べたのが楽しかったのと北海道の人は雪は降っていても傘をささないことに驚いたのを覚えているくらいである。親戚に呼ばれて九州バスツアーなんてのにも行ったが、やはり距離感とかは特に感じず、バスツアーはもういいかな、と思ったくらいであった。バスツアーの風情の無さはなんなんでしょうね。なんなんでしょうねっていうか、俺の旅には計画もガイドもいらないってだけなんですが。そういうものと諒解して今ツアーに参加したら楽しめるんでしょうか。いやそも旅で団体行動ってのが以下略。

 自分の中に楽しさ、あるいは楽しい、という枠があって、それがどこまで楽しいのか、どれほどの楽しさが今後自分を待っているのか、みたいな考えしか無いようなハナシで、旅に関してはつまり鎌倉に行くのも北海道に行くのも別段(友人が遊んでくれるのとかは別として)変わらないと思っていたわけです。近場で済まそう、と思って鎌倉に行くわけでなし、遠出しようと思って計画を立てるということもない。ふらっと秩父に行くなんてのは無論移動時間を考えますが、連休が取れてその気になれば唐突に長崎とかにも行くんでしょう(行きたい)。旅とは、旅である、というか。歩きたいだけ、見たいだけ、というか。

 それで、下田に行ってきた。そのことを書きたいなあと思って中々書けずにいたのだけれど、俺が言いたいのは下田がどうであったかということよりも、まだ見ぬ土地を思い描いた像と実際の土地のギャップとかなんかそんなニュアンスのことである。

 墓参りのついでに由比で桜エビを食う、というのが我が家の恒例行事であり、じゃあ桜エビ食ったらそのへんで降ろしてもらって俺は単独下田へ行く、という概ねの決定をしたのが実際行った日の二日前くらいであったとか、そんなことをついったーでポストしてたら某氏が一緒に行くなんて言い出したりとか(そんで寝坊して来なかったとか)、もともと下田の滞在時間は5,6時間の予定であったとか、結局当日毎度の如く寝坊して桜エビすら食えずに(当然墓参りもせず)富士川の駅で降ろしてもらったとか、それで何とか1447(だったか)に下田に着けたとかそんな慌ただしいにも程がある状態ではあったが、それでもインターネットを駆使して僕は着々と下田の情報を集めていた。夏色キセキの聖地を巡るにはどう行くのが効率的か、しかしもう日が暮れるのも早い……どこを諦めるか、とか。また、そんな予定を組んでもどうせ立ち止まる時は立ち止まるわけで、気になる路地があれば入ってしまうわけで……なんてことも考えていた。つまりいつも通りである。
 前日あたりから、夏キセで使われている場所と場所の間隔が気になり出す。近い…んじゃないか……? 某巨大掲示板(の夏キセスレ)でオススメのルートを聞いてみたが、そのときに言われたこともあった。「彼女らが日常的に行っている場所だから、ふらふらと歩いても割とすぐ着くよ」。それは事実であった。事実であったし、地図アプリで確認してもやはり徒歩10分前後で大体どこそこからどこそこまで行けることも何となく分かってはいた。のだが、それが凄く奇妙だった。納得がいかなかった。舞台って、聖地って、そういうのだっけ? ウォーカーとしての感覚もそうで、例えば鎌倉から江ノ島までは徒歩1,5時間くらいである。アカイイトのあの駅(武蔵増戸)からあの山道までは、確か2時間くらい歩く。観光地として捉えても、やっぱりコンパクトな気がする。いやいや海沿いだから、サーフィンを嗜むにはもっと広く捉えられているのだろうとも思うが、サーフィンやる人はペリーロードや下田公園にはあまり行くまい。知らんが。
 そうして伊豆急下田駅に降り立ち、観光案内みたいなところで夏キセの観光マップを貰おうとするも無いと言われ、いいもーん知ってるもーんとばかりに道の駅に向かった。近い。強風に大変煽られたが、それでも10分くらい。電車降りて10分ちょいで黒船ってなんだそれ。スタンプラリーが1600までで諦めてペリーロードへ向かう。商店街を眺めながら歩いていたと思ったらトンネルを三つくらいくぐっていて、「サーフィン場 こちら ←」の看板を見て下田公園は逆方向だったと気付く。違うかなーと思いながら歩いていたんですが。後から改めて地図を見るに、やはり距離感が狂っていたようで、つまり駅からペリーロードも下田公園も、近かった。もっと歩かねば着かない場所なのだと、そう思い込んでいた。ペリーロードに戻り下田公園に行き、誰もいない馬場ヶ崎展望台で一休みして、駅前に戻ってローソンに入った頃には日は暮れていた。もう歩き回るのもなんだな、と思いながらそれでも商店街をうろうろして、夏キセカフェとなっている某占い喫茶店で飯を食い酒を飲み談笑し貴重な映像を見せてもらって終電(20時半くらい)で帰った。

 下田の駅を降りてしまえば、少なくとも俺の行きたいところは徒歩15分くらいでどこへでも行けた。下田までは東京から3,4時間。飛行機もいらない。商店街を歩けば地元の人がいて、下田公園には犬の散歩をしている人がいた。観光地、と言うには名物は少なく(バスの運転手さんに「今の時期下田公園に行っても何もないよ」と言われた)、微妙に遠い。「下田はハンパだ」と親も言う。全くその通りだと思う。だからそのハンパさに惚れる、というのは大いにあるなあ、と思った。夏色キセキが言いたいことも、また少し見つかった気がする。紗季のどうにもならない葛藤は、夏海達のどうにもならない葛藤と共に昇華したが、昇華したかのように見えるしきっと確かに少なからず昇華したが、それでも同様に、確かに少なからず残留するものもあった。夏色キセキは1話から12話までどうにもほろ苦く、またそんなにキレイに終わってなんかいない。だからと言って、2期があれば良いとも正直あまり思えない。下田は、住んでいる人からすれば失礼な話だろうが、なんだか哀愁たっぷりで、だからと言ってどうにかなればいいとは思えない。
 なるほど、なんて少しだけ思ったりした。